2009/04/09

カメ。

 去年のそろそろ冬になろうかという頃、突然娘が「カメが飼いたい」と言い出した。どうもお友達の家に遊びに行ったときにいたカメにいたく心惹かれたようで、自分でも飼ってみたくなったらしい。

 いずれ自分できちんと世話ができるようになったら、なにかの生き物を飼わせてみようとは思っていた。生き物を飼い始めてから死ぬまでをきちんと世話をさせ、子供なりに色々学んで欲しいと思っていたからだ。しかし、四歳で、というのはさすがに早すぎる気がした。
 生き物の世話をずっとする、というのは結構大変なことだ。飼う、ということは極端に言うと、その対象に対して生殺与奪の権利を持つ、というのに等しい。飽きたからといってなかったことにするわけにはいかないし、休むわけにもいかない。そういう責任が発生する。それだけのことを四歳でできるのか。正直言って難しいだろう、と思った。

 そこで、我が家の犬の世話をさせてみることにした。途中で諦めるだろうが、それでも生き物を飼うことの大変さがわかってくれればそれでいい、と思った。

 以前、我が家の愛犬の散歩をさせたい、と言ってきた子がいたので、週末の朝だけなら、と了解したことがある。小学生だったのだが、週に一回の散歩が結局二ヶ月続かなかった。でも、自分が小学生の頃だってそんなものだったし、その子が犬の散歩が思ったより大変だ、という経験が積めたならそれで十分よかったと思っている。

 娘一人で散歩は無理なので、朝晩のご飯やりをやってもらうことにした。
 短くて三日、一週間続けばいいだろうと思ってはじめてみたが、娘は当然のように毎日黙々と世話を続け、全く投げ出す気配がない。一週間が二週間になり、一ヶ月になり、二ヶ月になり、とうとう三ヶ月やり通した。

 ここまでやられてはもう反対する要素がない。二月の誕生日に、娘は念願のカメを手に入れた。
 一緒に爬虫類専門店に行って、さんざん悩んで娘が選んだのはロシアリクガメ。当初想定より多少高くついたが、娘は満面の笑みで嬉しそうだった。

 誕生日から二ヶ月たっても、娘は毎日ちゃんとカメの世話をしている。
 リクガメは昼間活動して夜は寝ているので、平日は朝餌をやって夜食べ残したのを掃除するだけで動いているところを見ることさえほとんどできないのだが、文句も言わずにちゃんと世話をする。
 そういえば、カメの名前を決めたとき、娘は飼うずっと前から「カメキチ」に決めていた。もっとかっこいい名前にしたら、と両親がさんざんいっても頑として変えなかったあたりも、意志の強さが出ていたように思う。

 自分が五歳の頃にはとてもこんなことはできなかったろう、と、毎日当たり前みたいな顔をしてカメキチの世話をする娘を見るたびに思う父親なのだった。

グループ。

 5歳児クラスになって、保育園では新しいグループが作られたらしい。

 娘が通っている保育園では、幼児クラスになると4、5人毎のグループを作って、そのグループ毎にお当番をしたりご飯を食べたり、ということをやるようになっている。もちろん年の途中でグループはなんどか組み替えられるのだが、そのたび毎にグループ名を考えたり、決まりを自分たちで考えたりするのが、子供たちにとってはちょっとしたイベントらしい。

 5歳になって最初の娘のグループは、「カメレオングループ」なのだそうだ。一緒のグループは誰々なんだよ、と楽しそうに保育園からの帰り道に教えてくれる。グループの名前はどうやって決めたの?と聞くと、みんなで話して決めたんだよ、でも最初にカメレオンっていったのは○なんだよ!と嬉しそう。

 家に帰って夕飯を食べている間も、楽しそうにカメレオンの話をしてくれる。カメレオンって体の色が変わるんだよね、だから隠れるのがうまいんだよね。そうだね、ジャングルの中だと……と父親が言いかけた途端。

 「だからパパのちんこの前に置くとちんこの色になるよね」

 ……口の中に食べ物が入ってなくて本当によかった。(というかいったいどこからそんな発想が)

2009/04/06

さくら。

 ばたばたと忙しい日々を過ごしているうちに娘は五回目の誕生日を迎え、とうとう保育園でも一番上のクラスになった。ついこの間保育園に通い出したばかりのような気がするのにねえ。毎日毎日おむつをもって通って、毎朝毎朝びいびい泣かれて後ろ髪引かれる思いをしていたのがつい昨日のようだ。……いや、少なくとも去年の夏頃までは毎朝びいびい泣いてはいたか。しかしそれでも、今ではすっかりお姉さん、毎朝にこにこハイタッチをしてバイバイしていて、頼もしいやら少し寂しいやら。

 そんな毎日を過ごしているうちに、いつの間にか気候はすっかり春めいてきた。暖かくなってきた空気に誘われて、景色も色づいてくるし気持ちも少し軽くなる。
 春と言えば桜だ。我が家から保育園までの道のりには大きな桜の樹がはえていて、今年は一週間以上朝晩その花ぶりを楽しむことができ、花見はそんなに好きでもないが桜は大好きな父親にとっては至福の一週間だった。しかしなぜだか娘は今ひとつらしく、父親が毎日自転車を止めては「咲いてきたねえ」「満開だねえ」「夜桜はいいねえ」と見上げるたびに、「○はあんまり好きじゃない……」とつまらなさそうにしていた。

 そんなある日。
 保育園に迎えに行くと、娘がにこにこ近寄ってきて「おみやげがあるよー」という。目をつぶって、というので目をつぶり、言われるがままに手のひらを上に向けると、娘がその上に何かをそっと乗せてくれた。

 目を開けると、桜の花。

 保育園の庭に落ちていたのを、「パパが好きだから」と拾って大事に取ってあったらしい。なんだか涙が出そうになって、大事に大事に、家に持って帰った。

 少ししおれていた桜の花は、家に帰って水につけるとまるで息を吹き返すようにきれいに咲き、その後三日ほどもその姿を楽しませてくれた。

 いつまでも、そんな優しい気持ちを持ち続けていて欲しいと思う。

2009/01/13

バスタオル。

 いつも保育園に持って行っているお昼寝用の大判のバスタオルは、娘をとてもかわいがってくれていた亡くなった大叔母からもらったものだ。娘もそれをわかっていて、「Sさんのタオル」と言って大事にしている。そのバスタオルやパジャマは、週初めに持って行って週末に持って帰ってきて洗濯してまた持って行く、というのがルーチンになっている。パジャマは娘の気分で週によって違うが、バスタオルはいつでもずっと、「Sさんのタオル」だった。

 先週の金曜日、娘が急に熱を出して休むことになった。保育園に連絡すると、荷物は取りに来られないですね、じゃあ週明けに換えのバスタオルだけもってきてください、と言われた。
 幸い娘の熱は一日で下がり、三連休たっぷり休んだあとの今日、先生に言われたとおり、代わりにプーさんのバスタオルをもって登園した。

 夜のお迎えの時、娘がなんだか機嫌がいい。
 何かいいことあったの、と聞くと、バスタオルが二つあったのをお友達がびっくりしたんだよー、と嬉しそうに説明してくれる。普段と違う、というのが楽しいんだなあ、と思っていたら、続けてこんなことを言った。

「プーさんのタオルね、いい匂いがしたんだよ。何の匂いかっていうとね、パパの匂いなんだよ。だから寝てるとき、パパと一緒に寝てるみたいで楽しかったの」

 プーさんのタオルは娘専用のタオルなので、パパの匂いがすることはないと思うんだけどなー、と思ったのだが、それはともかく、どうしてこう娘は自然にそしていとも簡単に、父親の弱点をクリティカルヒットさせられるのだろうか。全くかなわない。

 しかしその後調子に乗って、実は君が寝た後にパパも会社抜け出して保育園に行って一緒に昼寝してるんだよー、と言ってみたら、とたんに娘に「それはいやだー」と言われてしまった。
 なんで?と聞くと、

「パパはちゃんと会社行かないと。会社やめないといけなくなっちゃうでしょ」

 本日二連敗。全く娘にはかなわない。

2008/12/25

まくら。

 今より小さい頃から、娘は一緒に寝ている私の枕の下に片腕を差し込んで眠るのが好きだ。
 絵本を読んでもらったりお話を聞かせてもらったり(最近の娘のお気に入りは、自分を登場人物にしてもらって即興でお話を作ってもらうことだ)している間は普通に仰向けに寝ているのだが、いよいよ眠くなってくると私の方を向いて横になり、そのまま片腕をずりずりっ、と枕の下に差し込んで目を瞑る。

 今日もそんな感じだったので、君は前からパパの枕に腕を入れるのが好きだよねえ、というと、娘はなんだか照れたような顔をして言った。

「だってこうすると、パパが手を温めてくれるみたいな感じがして安心するんだもん」

 どうもありがとう。きっと、暖めてもらっているのは君ではなくてパパの方だと思うよ。